2005 年から街区一体開発の検討を始め、街の課題と向き合いながら「地域と共に育つ街」を実現した
本プロジェクトはどのように進められたのか?
その実績と知見を次の再開発プロジェクトへどのように継承されていくのか、携わった社員に話を聞きました。
平岩
:
日比谷フォートタワーがあるこの西新橋一丁目周辺は、元々老朽化した建物が多く、狭い道路も存在して、防災面や土地の有効利用に課題がありました。このため、2005年から地権者の方々と街区一体開発の検討に関する協議を開始しました。しかし、協議開始から2年程度経過した頃、行政や地権者と合意形成に至らず、止む無く計画は一度白紙になっています。ただ、当社としてこのエリアはかつて三井物産本社があり三井物産グループとしてもゆかりのあるエリアであることや、地権者の方々ともこのエリアにおける課題の共通認識はありましたので、2012年から本格的に協議を再開することができました。
髙塚
:
協議再開に至るまでは大変でしたか?
平岩
:
やはり地権者の方々との調整は簡単ではなかったですね。街思いで穏やかな方ばかりでしたが、鋭い指摘をいただくこともありました。建物が老朽化しているとはいえ、長年地元でビジネスを営まれていたりするわけですから。相手の想いや本音を引き出すためにもまず自分の想いを強く持ち、その一方で、伝え方に最大限の配慮を払うよう心がけていました。
北村
:
このエリアが都市再生緊急整備地域に指定されたことで大きく風向きが変わったと聞きました。
平岩
:
そうですね。様々な課題がありましたが、何よりこのエリアの賑わいが不足していて都心に相応しい魅力ある街並みが出来上がっていない状況でしたので、だからこそ、私たちが責任をもって一歩を踏み出す必要がありました。
髙塚
:
建築工事の着工後はどのような苦労がありましたか?
平岩
:
わりと初期に当たった壁として印象深いのは、江戸時代の遺跡が出てきて工事が止まってしまったことですね。再開発にあたって、もともとエリアの中心にあった道路を敷地の南側に付け替えるということをしたのですが、もともと道路だったところを掘削した地下部分が、これまでほとんど手つかずだったんです。
髙塚
:
え...そんなことがあるんですね。工事はどうなったんですか?
平岩
:
史跡の保護が最優先なので、当初は半年から1年は工事が完全に止まる見込みでした。ただ、港区の教育委員会やゼネコンの皆さんに掛け合って、調査と並行して進められる工程を見極めて、細心の注意を払いながら工事を進めるという形にすることができ、結果として、中断は3か月程度で収めることができました。
北村
:
普通なら大きな遅れになりかねないところですよね。
平岩
:
本当にそうで、現場との調整や行政との協議など、地権者代表としてさまざまな関係先の中心になるというのは、プロジェクトマネージャーとしての苦労でもあり、やりがいでもあるかなと思います。大変でしたが、当時関係者が一丸となって進められたことは、大きな財産になったと思っています。
髙塚
:
事業関係者とプロジェクトを推進していく中で、意識していることはありますか?
平岩
:
やはり「相乗効果を生むこと」ですね。私は日比谷フォートタワーの開発に携わる前に、親会社の三井物産に出向していて、『OTEMACHI
ONE』プロジェクトにも携わっていました。大手町エリア最大規模の複合開発で、複数の企業が力を合わせて進める難しさと面白さを、多方面から経験できました。
北村
:
プロジェクト専用のロゴや、それが印字されたTシャツなんかも作っていましたよね。
平岩
:
『OTEMACHI
ONE』では、プロジェクトに関わる人のためだけのグッズを作ったり、交流の場を設けたりして仕事以外のコミュニケーションを円滑にすることで、結果的に仕事もスムーズに進む、そんな経験がありました。
例えば、ゼネコンの皆さんとは、発注者と請負者という立場の違いから、利益を優先すると意見が対立してしまうこともあります。でも、そうした関係性を乗り越えるためには、「地域の課題を解決し、街の未来をつくる」という大きなゴールを共有することが大切だと思っています。そのうえで、「どうせやるなら楽しくやりましょう」という前向きな意識で協力し合う姿勢が重要です。だからこそ、日頃から積極的にコミュニケーションや交流の機会を持つように心がけています。
北村
:
意見がぶつかることがあっても、同じゴールを見ていれば自然と解決に向かっていくというか。コミュニケーションが正しく取れていると、かえって団結力が高まるというのはありますよね。
平岩
:
結局のところ、人と人との連携がどれだけできるかが、街づくりやものづくりの本質だと思うんです。良くも悪くも、すべてはコミュニケーション次第。関わる一人ひとりの姿勢次第で、相乗効果が生まれれば「1+1」が「3」にも「4」にもなる。それがグループとしての総合力になり、ディベロッパーとして地域の特性を活かした街づくりにつながっていくのだと思います。
髙塚
:
北村さんはディベロッパーとしてのどのような場面でやりがいを感じましたか?
北村
:
日比谷フォートタワーのプロジェクトでは、主に商業店舗の誘致を担当したのですが、各案件に様々なドラマがあって契約が決まったときの喜びはひとしおでしたね。
平岩
:
商業店舗の誘致は、ちょうどコロナ禍の影響もあって、とても難しい時期でしたよね?
北村
:
はい。当時、どのオーナーさんも既存の店舗を維持するだけでも大変苦労している状況でしたので、こちらからの出店提案に関心をもってくださる方がほとんどいませんでした。
髙塚
:
どうやって誘致を行っていったんですか?
北村
:
自分で実際にお店に足を運んで、その味や雰囲気を体感したうえで、「このお店にぜひ入ってほしい」と直接オーナーさんに提案することを繰り返し続けていました。また、フォートタワーの施設管理を行っている会社には、ありがたいことに取引先をご紹介頂くなど営業協力もしていただきました。
平岩
:
そうやって一店舗一店舗、丁寧に向き合っていったんですね。
北村
:
実際に地方の実店舗まで足を運んでオーナーさんが出店を決めてくださったときは嬉しかったですね。信頼関係を築きながら一緒に形にしていくプロセスは、苦労も多い分、やりがいがありました。
それに、自分が好きなお店や、「この街やビルにこういうバランスで飲食店があるといいな」とテナント構成を考えるのが楽しかったです。焼肉、イタリアン、高級、カジュアルなど、ジャンルや価格帯のバランスも考えつつ、「自分がおいしいと思ったお店」にアプローチできるというのは、ディベロッパーならではの面白さだと思います。
髙塚
:
日比谷での経験を経て、次の再開発にも本格的に取り組んでいこうという機運が高まっていますよね。
平岩
:
はい。ただ老朽化したビルを建て替えるというだけではなく、「街全体がどう変わるべきか」を見据えた再開発を進めたいと考えています。
北村
:
街づくり全体を視野に入れることで、総工事費が数百億円規模にもなるような、大型の都市開発が可能になりますよね。商業ビルの整備に加えて、スタートアップ企業が活躍できるようなオフィス環境の整備、さらには災害時に地域住民が一時的に滞在できるスペースや備蓄倉庫の設置や公共貢献など、機能面での強化も含めて考えることが必要になります。
平岩
:
たとえば、地域が求める価値に対して私たちがいかに応えるか。公共貢献や良好な市街地形成の見返りとして、本来の容積率の上限を超えて建築物の延べ床面積を増やせる特例があります。再開発の容積率緩和は、単に建物を大きくするだけでなく、公共性や公益性の確保と経済合理性を両立させ、都市全体の価値を高めるための重要な都市計画手法です。まさにそれが再開発の醍醐味であり、ディベロッパーとしての腕の見せどころだと思っています。
北村
:
現在日本橋エリアで再開発プロジェクトに着手していますが、やはり独自の都市背景をどう活かすかが重要ですよね。江戸時代から薬問屋が多く集まっていた場所で、「くすりのまち」としての歴史があり、今でもライフサイエンスやヘルスケア領域での存在感があります。その歴史や伝統を尊重しつつ、都市としての新たな可能性を模索しているところです。
平岩
:
まさにそうですね。そうした文脈を踏まえて、ライフサイエンスやヘルスケアに関わる企業・研究機関が活用できるような機能も開発に組み込んでいくことも検討しています。単にオフィスや商業施設をつくるのではなく、地域や産業に貢献できる空間を整備していくことが重要だと思っています。
北村
:
それ以外にも、駅前広場を整備することも計画に入っています。都心の駅前に滞留できるような空間が少ないんですよね。たまたま私たちの開発地が隣接していることもあって、駅利用者がふらっと立ち寄れるような憩いの場をつくれたらいいなと。
平岩
:
駅前というのは、不動産としても価値を高める大きな要素になりますからね。
北村
:
はい、それに加えて、再開発を通じて自然に人が流れていくような「ウォーカブルな街づくり」にも貢献できると考えています。街がバラバラに開発されるのではなく、面的につながっていくことで、都市としての一体感や居心地のよさが生まれると思うんです。
髙塚
:
最近では、街の開発にあたって、目に見える課題だけでなく、もっと潜在的な課題にも目を向ける議論が増えてきましたよね。
北村
:
そうですね。たとえば「放置自転車が多い」「ポイ捨てが多い」といった身近な課題もあれば、一見すると見えにくいけれど、実は将来的に大きな影響を及ぼすような課題もあります。そういったものに、ディベロッパーとしてどれだけ気づけるかが重要になってきています。
平岩
:
"行政が重視すること"と、"我々が開発したい方向性"に乖離があるケースもありますよね。
北村
:
そうですね。たとえば、日本橋川を中心に開発が進んでいる当エリアで今開発を進めなければ、当地区周辺で回遊性が分断されてしまう――そんな中長期的な目線での課題は、行政視点では見えづらい場合もあります。でも我々は街の流れや人の動きから、将来的な回遊性の低下という潜在的なリスクに気づける。そういう"都市の予見力"は、ディベロッパーが持つべき視点だと思います。
髙塚
:
防災の視点もそうですよね。たとえば「帰宅困難者対策」や「避難動線の確保」など、普段は意識されにくい課題こそ、我々から行政に働きかけていく必要があります。
北村
:
そのとおりです。震災時に電柱が倒れて緊急車両が通れなかった――そんな事例もあり、無電柱化なども大きなテーマになってきています。再開発を機会に、地域だけでなく、もう一歩広げて"街全体の安全性"を高めていく。そういった域外貢献も、私たちディベロッパーが再開発を通じて果たすべき価値のひとつだと考えています。
平岩
:
「街全体を面で整える」感覚ですね。
北村
:
まさにそうです。一つの課題に取り組むことで、複数の課題が連鎖的に改善される可能性もあります。だからこそ、細かな要素に丁寧に向き合いながら、面的に都市の未来を描いていくことが求められていると感じています。
平岩
:
だからこそ、私たちディベロッパーがその「気づく力」を発揮して、未来の都市を描き続けることが求められていると思います。